カクテル・レセプション「マラリア制圧に向けたプライベートセクターの貢献」を開催しました!

[vc_row][vc_column][vc_gallery interval=”3″ images=”10904,10913,10912,10911,10910,10909,10908,10907,10906,10905″ img_size=”full”][/vc_column][/vc_row][vc_row][vc_column][vc_column_text]マラリア・ノーモア・ジャパンは、2016年10月18日都内にて、米国本部マラリア・ノーモアと共に「マラリア制圧に向けたプライベートセクターの貢献」と題しカクテル・レセプションを開催しました。日本政府関係者、アカデミア、製薬・医療機器メーカーほか企業関係者、関連機関・団体などから多数のご参加をいただきました。
マラリア制圧に向けた世界のマラリアの現況を技術的な側面から、そして、住友化学の取組みを事例とし企業が社会課題解決にコアテクノロジーで継続的に取組む意義やパートナーシップの重要性を紹介、民間企業の果たす役割の大きさを共有する機会となりました。今後、ますます本分野へ参加企業が増えることを期待します。
【開催概要】
主催: マラリア・ノーモア、マラリア・ノーモア・ジャパン
日時: 2016年10月18日(火)18時~19時30分
会場: 浜松町 東京會舘 オリオン・ルーム(東京都港区浜松町2-4-1 世界貿易センタービル39階)
参加人数: 57名  
通訳: 遂次通訳有
登壇者:
ウェルカムご挨拶  
クリストファー・コーム マラリア・ノーモア共同代表、Combe Incorporated会長
乾杯のご発声  
近藤 哲生 国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所 駐日代表
世界のマラリアの現況  
狩野 繁之 マラリア・ノーモア・ジャパン理事、国立国際医療研究センター研究所 熱帯医学・マラリア研究部長
マラリア制圧に向けたプライベートセクターの貢献  
西本 麗  マラリア・ノーモア・ジャパン理事、住友化学株式会社 代表取締役兼専務執行役員
司会進行
長島 美紀 マラリア・ノーモア・ジャパン理事
講演内容は以下および開催報告書をご覧ください。
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ウェルカムご挨拶   プレゼン資料
クリストファー・コーム (マラリア・ノーモア共同代表 Combe Incorporated 会長)

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今回こうやって東京におじゃまでき本当にワクワクしております。今晩はまさに日本にとって、そして世界にとって非常に重要なプロジェクトのスタートであると思っています。
さて、ここにおられる皆様は世界が抱えるマラリアという問題になじみある方々ばかりだと思います。ご覧のとおり全世界で2億1400万もの症例、マラリアの患者がいる、そのうちアジアには3200万ということになっています。歴史上、人類の人口の半分に相当する人が実はこのマラリアという病で命を落としております。そしていま、年間で43万8000人がやはりこのマラリアで命を落としている、その多くは5歳未満の子どもや妊婦さんであったりするのです。また、この疾病によってもたらされる経済的な、直接的なインパクトは米ドルにして年間120億ドルと言われておりますが、これはあくまでも疾病治療また早期死亡というコストのみを計上したものです。
実際にこのマラリアによってもたらされる経済的な負荷は1兆から2兆ドルに相当する、これは実に200兆円ないしは300兆円に近いということになります。すみません、円の換算を間違えておりまして、100兆から200兆が正解です。実は41年ほど前に東京に来て日本でビジネスを立ち上げるときの為替レートが1ドルに対して300円だったものですが、1ドルに対して100円という時代にまだなかなかなじまないもので、申し訳ございません。
さて、マラリア・ノーモアが立ち上がった2006年以降、まさに前例のないほど進捗があったというふうに思っております。この15年間を振り返っただけでも100万人が命を落としていたものが、いまや先ほど申し上げましたとおり年間の死亡者が43万8000というところまできました。これがどうして実現できたかといいますと、この間、マラリア対策に対するサポートが270%増大し、そしていまやその金額が30億ドルに到達したことが背景にあります。
また、ご存じだと思いますが、その中で日本はこの分野に関して非常に大きな貢献をされてきました。日本はグローバルファンドを立ち上げた創設国でもありますし、また引き続き非常に大きな貢献をされておられます。今年だけでも8億ドルの拠出ということになっております。
さて、マラリア・ノーモアですが、私どもはたとえばビル・ゲイツ財団やマッキンゼーなどの方々と協力させていただいておりまして、長期的な計画を描いております。すなわちこの25年の間にマラリア制圧を図るということを考えています。
とはいうものの、実はこのアジアにおいてこそ非常に大きなチャレンジもあり、また大きな機会もあると思っております。というのは1957年、メコン川流域で見つかった寄生虫が、いまやアルテミシニンという唯一承認されているマラリア治療薬に対して耐性を構築しつつあるということが指摘されているからです。
したがって、ぜひこの15年の間にメコン川地域、そしてアジアにおいて、私どもはマラリア制圧を目指して尽力しなければなりません。すなわち唯一マラリアに対して効果があるといわれている治療薬の効力に対して耐性が構築されてしまう前に何とか制圧をしなければならないのです。
なぜ制圧をしなければならないのか、そうでないとまたこの疾病が再燃し、そしてさらに拡大の一途を遂げるからです。そして北方に進むことになるでしょう。これは日本においても同じです。実は米国においてもジカ熱で同じようなことが見られています。ブラジルの疾病だったものが、あっという間に米国に入ってきているのです。
マラリア・ノーモアですが、蚊に刺されたということで命を落とすような子どもがもはやいないような世界をつくることにコミットをしているわけです。実はこういった言葉は今年の1月、オバマ大統領が行いました最後の一般教書演説の中でも指摘した言葉から抽出しているわけですけれども、彼いわく、「HIVの蔓延は何とか止めることができた、今度はマラリアの蔓延を止める時期だ」と。
さて、マラリア・ノーモアというものはマラリア制圧に特化した、またそれに邁進している唯一の組織であると言ってよろしいかと思います。そしてそのためにわれわれが何をやっているかといえば、やはりアドボカシー、政策提言ということで、それにあたっては数多くのパートナーのお力添えをいただいています。
幸いなことに私の共同代表の同僚は、実はニューズ・コーポレーション、フォックスというニュース系のグループのCEOを務めており、メディア界において数多くのコンタクトを持っている方でした。その結果、知名度を高める、啓蒙するということができたわけです。
また、ノバルティスなども先ほど申し上げましたアルテミシニンなどに対して相当程度投資をしている、そして7億もの薬を提供している、しかもそれはあくまでも実費のみのコストで提供しておられるのです。
また、GHIT Fundというようなファンドも相当程度マラリアに対する研究そして協力を行っております。おかげさまで米国においては私ども、年間で12.5億ドルもの資金調達をすることができております。
この写真(プレゼン資料P.10)は、私が実際にタイを訪問したときに撮ったものをご覧いただいております。その結果、私自身、タイにおいてマラリアに対抗するうえで、いかに現場で難しいチャレンジに直面しているかということを目の当たりにすることができました。というのは、たとえば近隣諸国のミャンマーなどから移民労働者がタイに入ってくる、そして彼らは夜間、ゴム工場などで仕事をしているために蚊に刺されてしまうのです。そこで地元のタイの若い女性のボランティアなどがこういった労働者にアプローチをして、ぜひクリニックなどでマラリアのテストをするように呼びかけているのです。
そういった意味ではいかにこのマラリア制圧のための計画実施が難しいかということを感じ取ったわけですが、この制圧にあたって、日本はまさにリーダー的な存在であるというふうに思っています。日本はグローバルファンドを立ち上げた創設国でもあります。そして相当程度この分野に関して投資をしてこられた、そういった意味では向こう15年間でマラリアを制圧するということに関して、日本は相当程度の協力を実行可能な地位にあると思っています。
さて、後ほどマラリア・ノーモア・ジャパンの理事である狩野先生から、この分野にかかわる技術的な側面についていろいろとお話を伺いたいと思っております。また同じくマラリア・ノーモア・ジャパンの理事でいらっしゃる住友化学株式会社の西本様からは、企業サイドとして実際にどのような活動をしておられるのかを伺いたいと思います。ちなみに住友化学さんは数億という単位の蚊帳を提供しておられる会社でいらっしゃいます。日本がいかにこの分野でそのサポートを提供していただけるかということの証左でありましょう。
また、私は今朝、エーザイの内藤晴夫会長とお目にかかることができました。会長からまたいろいろとお話を伺ったわけですけれども、たとえばGHIT、グローバルヘルス技術振興基金の一環としてワクチンの開発に取り組んでいるというお話をすることができました。
マラリア制圧のための戦略を練るということ、そしてその戦略の実施にあたって協力しております全世界のさまざまなパートナーをここで(プレゼン資料P.14)ご紹介しております。日本の皆様のコミットメント、そしてまたご協力に心から感謝をする次第でございます。申し上げましたとおり、われわれは本当にスタートを切ったばかりだと思っております。しかし、この部屋には私どもの最終的な目標でありますこの悲惨な疾病をとにかく制圧しようということに関して本当に力を貸してくださるキープレイヤーばかりがそろっていると思っております。
皆様、本当にどうもありがとうございました。今回、理事会のメンバーもおりますし、また米国からはアドボカシー担当のスタッフも来ております。またアジア太平洋担当のマラリア・ノーモア・アジア・パシフィックのディレクターもおります。また同じくマラリア・ノーモア・ジャパンの理事の方もおられますので、ぜひお話しできればと思います。皆様からのさらなるご協力をいただければ幸いです。まことにありがとうございました。
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乾杯
近藤哲生 (国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所 駐日代表)

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マラリア・ノーモア共同代表のクリストファー・コーム様、マラリア・ノーモアのすばらしい活動に感銘を受けた次第でございます。私は今日、乾杯の音頭をさせていただくようにということで、僭越ながら伺いました国連開発計画、UNDPの駐日代表の近藤哲生と申します。
国連機関であるUNDPが、なぜ「マラリア制圧に向けたプライベートセクターの貢献」と題したこのレセプションに伺ったのか不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし民間企業と国際機関との協力というのは、ただいまのマラリア・ノーモアの活動にも見られますように、対話や連携が世界中で広がっております。社会課題をビジネスで解決するという動きが活発になってきておりまして、プライベートセクターの存在感、コーポレート・ソーシャル・バリューへの関心が高まっております。
国際社会は昨年9月の国連総会において、2030年までに平和で繁栄した世界をつくるための持続可能な開発目標、Sustainable Development Goalsを採択いたしました。今年からその実施が始まりました。SDGs、Sustainable Development Goalsは開発途上国のみならず先進国を含むすべての国の達成目標でございます。また、民間セクターには資金提供のみならず事業活動、ビジネスを通じてSDGsの達成に積極的に貢献していただくということが期待をされております。
これらの流れを受けまして、本年、UNDPは社団法人Japan Innovation Network、JINとともに、三菱総合研究所のご協力の下、SDGsをビジネス機会としてとらえて、日本企業によって積極的なイノベーションを促進し、SDGsの達成に寄与する革新的な、イノベーティブなビジネスを起こしていく連携プラットフォーム、SDGs Holistic Innovation Platform、SHIPが船出いたしました。これを設立いたしまして、活動を開始しております。
すべての国に共通する社会課題を提示するSDGs、すべての国の共通言語です。そこにはまだ充足されていないニーズのヒントが散りばめられております。これらのニーズの解決に取り組むことでイノベーションを起こすことも可能です。SHIPではこのイノベーションプロセスの中に、近年のデジタル経済の進化を組み合わせることで、これまでにない市場や産業の創出を目指しています。
たとえば先ほども申し上げましたようにSDGsの中にはグローバルゴールズ、すべての人類の課題、地球の課題が含まれていると言っても過言ではありません。17の目標になっております。その目標3、「すべての人に健康と福祉を」ということにつきましては、たとえば医療現場をもっとデジタル化することによって医療従事者の方の雑用を劇的に減らして、効率的かつ効果的に目標の達成に貢献する、つまり患者さんにフォーカスしていただくということも可能かもしれません。それは一つの例でございます。
このようにSHIPは今後、日本の民間企業の皆様の参加を募りまして、国内外のイノベーション・ネットワークや大学、海外のスタートアップ企業、それから開発援助機関、投資機関、経済団体など多角的なステークホルダーを巻き込みながら、イノベーション機会の探索、課題解決型ビジネスモデル構築、グローバルなネットワークの構築という成果達成を目指してプログラムを進めております。日本でSDGsを軸にビジネス・イノベーションを図るこのようなオープン・プラットフォームが構築されるのはSHIPが初めてだと思います。
また、本年8月には第6回アフリカ開発会議がケニアで行われました。私も参加してまいりましたが、初のアフリカでの開催ということで、今回のTICADには日本経済界からも大きなミッションが派遣されました。75社の会長、社長の皆さん、私もこんなに大勢の方々は見たことがありませんでした。
多くの国際機関や企業同士の連携が広まりゆく中、アフリカの指導者との協力関係が構築されるすがたを目の当たりにしました。このあとにお話を伺うのを楽しみにしております住友化学株式会社様は、すでに2008年よりUNDPなど六つの開発機関、政府が主導するBusiness Call to Actionといわれる開発とビジネスの長期目標達成の取り組みに参加されております。そちらにパンフレットがございますので、もしお荷物でなければ後ほどお取りいただければと思います。
住友化学が開発したオリセット®ネットという蚊帳、これはマラリアを媒介する蚊から人々を守り、安心して生活できる環境を提供できるのみならず、タンザニアでは現地生産をされて、約7000名のエンプロイメント、雇用を生み出している。地域経済の発展にも貢献し、さらにはその売り上げでアフリカに小中学校の校舎を建設し、また初等教育の教育環境を整備するというすばらしい開発と事業利益の両立を実現されております。
また製薬会社を始め数多くの企業、外務省、厚生労働省、UNDPの連携によりまして熱帯病に立ち向かうプロジェクト、GHIT、グローバルヘルス技術振興基金、この活動も着実に成果を上げております。新興国、途上国をめぐるビジネス環境は政府や国際機関を巻き込みながらダイナミックに動いております。持続的成長に向けてビジネスの活性化をどう後押しするかはSDGsの達成のための大きなカギです。プライベートセクターによる貢献は先進国、途上国を通じて企業が社会課題をビジネスで解決するにはどうしたらいいのかということを教えてくださるアクターであるというふうに考えております。
皆様のご協力で、またマラリア・ノーモアをモデルとするこういった動きで、このSDGsの達成を進めてまいりたいと思います。どうか皆様のご協力をお願い申し上げます。
それでは乾杯の音頭を取らせていただきます。
Congratulation for your great activities and rollout of the Malaria No More, Initiative in Japan, Mr. Combe.
それではマラリア・ノーモアのますますの発展をご祈念いたしまして、また皆様のご健康とご事業の発展をご祈念いたしまして乾杯をさせていただきます。乾杯。
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世界のマラリアの現況   プレゼン資料
狩野繁之 (マラリア・ノーモア・ジャパン理事、国立国際医療研究センター研究所 熱帯医学・マラリア研究部長)

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皆さん、こんばんは。マラリア・ノーモア・ジャパンの理事でございます、国立国際医療研究センター熱帯医学・マラリア研究部の部長を務めております狩野繁之と申します。今日、10分ほど時間をいただきましてマラリアの現況を説明しろということで、日本語でやれということですので少し気が楽になりましたけれども、先ほどクリスがお話しした内容とほとんど同じでございますが、少し細かくおさらいをさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
マラリアというものがどのくらいのインパクトを与えているかと、10大死因で、貧しい国からわれわれのようなお金持ちの国に四つに分けると、矢印がついているものは感染症で亡くなる方たちですけれども、貧しい国の人たちはたくさんが感染症で亡くなる、その中にマラリアが入っているということです。
かつては低中所得国あたりまで(プレゼン資料P.2右上グラフ)マラリアが10大死因に入っていたのですけれども、現在は一番貧しい国、年間の1人当たりのGNIが825ドル以下、年間10万円ぐらいで生きている人たちがマラリアで死ぬということです。そしてわれわれはもう下気道感染症ぐらいでしか死ななくて、いつのまにかハートアタックとかストロークとか即ち虚血性の心疾患や脳溢血というもので亡くなるというわけです。マラリアのインパクトというものは結局、貧しい人たちに及んでいるということです。エイズ、結核、マラリア、下痢もそうです、それらの感染症は貧しい人たちの病気であるということを認識し直す必要があります。
そしてマラリアの対策のためのマイルストーンですけれども、(プレゼン資料P.3の「道標」)書き上げてきました。92年にアムステルダムでマラリアサミットが開かれて、世界の厚生労働大臣級の人たちが集まったときに、ここで一つ考え方が大きく変わりました。マラリアの対策というのは垂直型のバーティカルなものから水平型のホリゾンタルなものに変わらなくてはいけないということです。ここでコミュニティベースト・マラリア・コントロールであるとか、プライマリーヘルスケアに組み込んだマラリア対策が正当化されました。これが1992年で、この前のマラリア・エラディケーション・プログラム等ではすべてバーティカルだったものがホリゾンタルになったというこの宣言をしたときに、われわれは大きく驚いたものでした。
そして97年、日本にとっては忘れられない、われわれ寄生虫学会、寄生虫学者にとっても忘れられないのですけれども、橋本龍太郎元首相が世界のマラリア対策、寄生虫対策は日本が中心になってやるとデンバーのサミットとバーミンガムのサミットで宣言し、日本の寄生虫学者が世界の寄生虫を撲滅せよという命令をしました。われわれはこれを、主にマラリアの場合にはスクールヘルスベースト・マラリア・コントロールというかたちで行いました。そしてほとんど同じくして、グロ・ハーレム・ブルントラントWHO事務局長(当時)がロールバック・マラリアを打ち立てますが、このお話はこのあとします。
そして忘れもしない、クリスからも話がありましたが、沖縄感染症対策イニシアティブによってエイズ、結核、マラリアに日本が積極的に取り組むということで、これがグローバルファンドの生みの親になったということです。
ロールバック・マラリアは1998年ですけれども、このときにはWHOがよく言う言い方です、「No single organization can do it alone」、「われわれWHOの船に乗れ、みんなで一緒にやろう。船頭はWHOだ」と言うのですね。いつも船頭になりたがるのがWHOでありまして、WHO関係者の人がいないといいのですが、(笑)みんな乗りなさいと。グローバルファンド、ユニセフのような国連機関も、流行国もそうでない国も、いろいろなファウンデーション、いまでしたらマラリア・ノーモア・ジャパンも、乗った者全員でロールバック・マラリアなのだというふうに主張するわけです。そしてそれをグローバルムーブメントであるとか、キャタリスト、マラリア対策を加速するための触媒のようなものだと言いました。
目標は2000年から2010年までの間に、モータリティ、モービディティを50%下げる、そして2015年までに75%までに下げるというのが2000年の目標でした。そして去年、2015年がきて、この目標値が達成されたかどうかというのが問題だったわけですけれども、先ほどクリスがお話しされたように現在は2億1400万人、そして亡くなる方は43万8000人ですけれども、2000年に比べますと有病者は18%しか下がっていない、75%と言ったではないかと・・・。死亡者は48%しか下がっていない、まあ50に近い、いい線はいったかもしれないとは思いますが・・・・。
それでWHOは、この数字を悪いと言うのか、620万人もの命を救ったことに計算できるのだ、これを失敗と言うのかというふうに開き直った。(笑)それでわれわれはこの18%というものを見て、ちょっと満足いかなかったのですけれども、まあいいか・・!?というふうに言ったとか、言わないとかというところでございます。
しかしながら、よく見ると結局、世界のマラリアの流行自体はそれほど減っていないけれども早期診断ができるようになった、ラピッド・ダイアグノスティック・テスト(Rapid Diaganostic Tests)、それからアルテミシニン・コンビネーションセラピーズ(Artemisinin-based Combination Therapies)で命はだいぶ救えるようになってきたというのは実際のところだと思います。
このようなことで、WHOは過去15年は忘れましょう、(笑)もう過去は全部チャラです。今年から、新たなGlobal Technical Strategy for Malaria 2016-2030(マラリア世界技術戦略2016-2030年)を15年間でおこないます!と言って、この数字を見てください、2020年までに少なくとも40%、25年まで75%、30年までに90%死亡率、患者数を減らすという壮大な目標を立てました。これを見たときに、私はあと5年から10年で定年なんですけれど、30年までは頑張らないといけないと思っているわけです。
WHOのウエスタン・パシフィック・リージョンでは、20年までのゴールをごく最近出したところでありますけれど、ここは死亡率を50%、世界のものよりも少し高めに、それから有病率、患者数は30%、ちょっと低めで、この数字は世界と合っていませんけれども、西太平洋事務局ではこのような数値を立てているところであります。
それで西太平洋事務局ではマラリアのエリミネーション、エリミネーションというのはある一定の地域からケースをゼロにすること、一人の患者も出ない、これが定義であります。ですからエリミネートの言葉を使うときには非常に厳しい定義がついて回ることに注意して、これをコントロールと言ったほうがいいのか、またはエンド・マラリアと言ったほうがいいのか、フリー・マラリアと言ったほうがいいのか考えないといけないのですけれど、とりあえずはエリミネート・マラリアということです。
カンボジアは2025年、中国は2020年までには、ラオス、マレーシア、韓国、このへんは2020年ちょっとぐらいですね、フィリピン、パプアニューギニアのような島は、フィリピンは島の数が7000もありますし、パプアニューギニアも森が深いですし、2030年ぐらいまではかかるかな・・・ソロモン・アイランズも島が点在していて、島の反対側に行くのも大変、時間がかかるかなと・・・。しかしながらこのような目標を立てて、しっかりとエリミネートしたあとは、また原虫が入ってこないようにきちんとサーベイランスをして、モニタリングする体制をつくるというのを具体的に立てなくてはなりません。
そして福音的なものはこのアルテミシニンでありまして、昨年、中国の屠呦呦先生がノーベル賞をもらったところでありますが、この薬が最後の砦とWHOも言っております。脳マラリア、重症マラリアに効く、それから血中からの原虫の減少の速度が速い、しかも副作用が少ない、何を取ってもいい薬です。これを2000年前の書物を見て、熱湯で煮込んで抽出しないで。低温で抽出するというところがコツだったそうですけれども、これでノーベル賞であります。
しかしながら、クリスが言ったとおり、薬剤耐性がまた新たにカンボジア、ミャンマーあたりから出てきた。ここ(プレゼン資料P.9)に私の名前だけ赤線を引いてきましたけれども、私たちが今年出した”The New England Journal of medicine”のアルテミシン耐性の遺伝子のマーカー、K13-propeller geneというもののミューテーションの分布(ここに変異が入っていると耐性の可能性が強い)を、世界59カ国そして1万3000人の検体を使って変異の率の分布を見たら、何とカンボジアはすでに70%近い、ミャンマーは50%近い、ベトナムは40%、そしてラオスも20%でした。
われわれはいまラオスパスツール研究所と一緒に仕事をしていますので、世界パスツールネットワークの皆さんが全力を尽くしてこの分布を世界中で調べました。アフリカはわずかでほとんど変異がないし、中南米はまったく変異が入っていないというふうに、このK13-propeller geneの変異のディストリビューションを調べました。これがまたクロロキンのように、メフロキンのように、ファンシダールのように、世界に拡散していくのを何としても止めなくてはいけない、アジアで止めなくてはいけないというのがわれわれのミッションであります。
それでは日本はどうやってマラリアの流行拡散を止めるかというところが問題です。先ほどご紹介がありましたようにMillennium Development Goalsが去年まで、そしてこれがSustainable Development Goalsに変わって、われわれ感染症の研究者はちょっと心配(great concern)になっています。なぜかというと、8個のゴールの内の一つだった感染症が、17のゴールの内の一つの中の、そのさらに細かく押しやられて、世界の開発目標の中の感染症の対策というのはそんなに小さい部分なのかなというふうな気がしないでもなかったからです。
けれども、まあいろいろなシナジスティックなイフェクトで、水の問題で健康、母子の問題・子どもの教育で健康と、すべてポジティブなシナジーをもってナンバー3の健康のゴールをやっつけていくことが考えられます。このSustainable Development Goalsを達成するために、安倍晋三首相を中心に日本が得意とするユニバーサル・ヘルス・カバレッジの手法をもって、ここ(プレゼン資料P.11)に書いてありますように、「While sharing Japan’s relevant experiences, we can move forward together with this new agenda」、new SDGsの達成を加速するということです。
マラリアのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、マラリアの薬、蚊帳などを、本当に必要な人のところにそれらを届ける、辺境の貧しい人たちに実際に届ける、こういう届けるソフト面の援助は日本は得意です。日本はマラリアをなくし、寄生虫症をなくし、多くの感染症を克服した経験を持っています。こういう経験を使って、われわれは世界に貢献していかなくてはいけないというふうに考えております。Let’s make malaria no more、これがわれわれ、マラリア・ノーモア・ジャパンの決め台詞であります。今後ともよろしくご支援のほどお願いいたします。
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マラリア制圧に向けた私企業の貢献  プレゼン資料
西本麗 (マラリア・ノーモア・ジャパン理事、住友化学株式会社 代表取締役兼専務執行役員)

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こんばんは。引き続き私も英語ではなく、スライドは英語ですけれども日本語で説明をさせていただきます。私に与えられたテーマは、プライベートセクターとしてマラリアのエリミネーションにどう貢献できるかということで、住友化学の例を使いながらお話をさせていただきたいと思います。
メッセージが三つございます。民間企業はこういった取り組みをするにあたって何を考えなければいけないかということで、まず一つはコアテクノロジーをベースにして新しいことをやっていこうと、これはやはり大事だというふうに思っております。二つ目はサステイナビリティで、継続的、持続的にこういった取り組みをしていかなければいけない。1回限りの寄附といったことではだめだというふうに考えております。三つ目がパートナーシップです。この三つで、住友化学が取り組んできたことをベースにしてご紹介をしたいと思います。
住友化学は化学会社ですが、化学会社がなぜマラリアと関係があるのかと先ほどもご質問を受けました。住友化学自身はちょうど100年の歴史がございますが、いろいろな化学の分野がございます、石油化学、情報電子化学、あるいは医薬、それと私がいます健康農業関連事業というところで、約2兆円の売り上げのうち17%がヘルス・アンド・クロップサイエンスのセクターでございます。
住友化学は100年前に肥料をつくるところから会社が始まりまして、どんどんいろいろな化学領域に出て行きました。私の領域では1953年に天然除虫菊の有効成分でありますピレトリンを元に発明されたアレスリンという物質を化学合成してビジネスをスタートしたというところが肥料の次のビジネスであります。そのあとに農業関係に出て行ったわけですけれども、これ(プレゼン資料P.4)をご覧いただいてお分かりのように天然除虫菊を元にして蚊の殺虫剤ができます。住友化学はもう60年以上蚊との戦いをしているという歴史的な背景がございます。
現実に私どもはエンバイロメンタルヘルス、生活環境事業というものがございまして、一つは家庭用の殺虫剤が大きなビジネスです。住友化学は最終製品をやっておりませんで、国内でいきますとアース製薬さんやフマキラーさん、金鳥さんが私どものお客様、海外に行くとSCジョンソンとかレキットベンキーザーといったところがお客さんです。そこに有効成分を販売しているというビジネスでございます。それと公衆衛生の薬剤、あるいは先ほどからお話しいただいている蚊帳ですね、こういったことに取り組んでいるということでございます。
蚊のコントロールというのはもちろん蚊帳だけではなくて、皆さん、家庭で使っていただいているエアゾールですとか蚊取り線香ですとか、いろいろなアプリケーションがございます。実際に世界で蚊と戦うときには蚊帳だけではなくて、そういったいろいろなアプリケーションを駆使して蚊をコントロールすることが大事だというふうに考えております。われわれはそれをインテグレーテッド・ベクター・マネージメントというふうに呼んでおりますけれども、LLINというのがLong-Lasting Insecticidal Netsという長期残効型の蚊帳、これは普通の蚊帳に殺虫剤を練り込んだかたちでやっております。あと、いわゆるボウフラの駆除剤ですね、ラービサイド、スペーススプレー、それとIRS、これはIndoor Residual Sprayということで室内の残効散布、こういったいろいろなツールが実はあります。
蚊もいろいろな種類があります。マラリアを媒介する蚊は夜、活動するハマダラカですけれどもデング熱とジカ熱は昼、活動する蚊であり、べッドネットですべて済むことではないということで、発生から水源の管理、空間管理、あるいは室内管理と、こういったところにすべていろいろなツールが必要になってくる、これを総合的にやっていこうというのが住友化学の考え方でございます。
近藤様からもご紹介いただいたオリセット®ネットはもう非常に古くて、2001年に初めて長期残効の蚊帳でWHOの承認をいただきました。もう15年やっております。現実にいまお話がありましたMillennium Development Goalsの10年間、住友化学の蚊帳は80カ国以上に2億張の販売というかディストリビューションがされたということで、住友化学といえばオリセット®ネットと言われておりますけれども、実際にはこれだけではなくて新しいこと、先ほど言いましたようにいろいろなことをやっていく必要があるということで研究開発を続けております。
現実に、いまもうすでにマーケットに出ているものということで、このオリセット®ネットのセカンドジェネレーションというものをWHOの承認を取って出しております。先ほど薬剤抵抗性の話がありましたけれども、蚊も同じ化学成分を使っていますとどんどん抵抗性が発達してきます。それをいかにコントロールするかというのが非常に重要で、それに対抗してセカンドジェネレーションの蚊帳も上市しております。また、ラービサイドといういわゆるボウフラの駆除剤ですね、これはケミカルもありますし生物農薬でも対応をしております。また、IRS、ここに書いてありますようにすべて、ほぼ全領域にわたって住友化学がいろいろな薬剤を提供しております。
またパイプラインもいくつかあります。サードジェネレーションの蚊帳というのをいま開発をしております。これはいままでとはまたまったく違うモード・オブ・アクションの薬剤を入れた蚊帳ということで、引き続きWHOあるいはIVCC(Innovative Vector Control Consortium)というふうなパートナーシップで検討をしております。また、新しいIRSの薬剤、あるいはまったく新しい化学薬剤、こういったものをいろいろなかたちで開発をしているところでございます。
いわゆる殺虫剤の開発というのは医薬ほどお金はかからないのですが、これ(プレゼン資料P.9)はクロップライフ・インターナショナルというわれわれの業界団体の表から持ってきたのですが、実際に開発が始まって、ずっとお金を使っていって、どこで登録が取れて、そこから回収が始まっていくということをキャッシュフローのかたちで簡単なグラフにしております。
ご覧いただきますように、すべてスムーズにいって約10年、開発に時間がかかります。その間、ずっと研究コストをかけていまして、そのあとに回収が始まってくるということで、これはベストケースでこういうことです。対象の国や分野によってコストはいろいろ変わりますけれど、こういった開発にはだいたい100億円から200億円コストもかかるということで、これをどう回収するかというのは民間企業にとっては非常に重要な課題になるということでございます。
こういったことで、いかに持続的にこういった活動ができるかということは非常に重要になってきております。国際機関でもよくバリュー・フォー・マネーというふうなことが言われます。一つの見方は安いコストでできるだけたくさんの、たとえば蚊帳を流通させるとか、あるいは薬剤を購入して配るというふうなことが言われます。そのコストだけに注目しますと、先ほど言いましたような開発費をまったくカバーできないというふうなことになります。
したがいまして、バリュー・フォー・マネーというのは決してコストのことだけではなくて、いかにイノベーションを、インセンティブをつけるかという視点もいるのではないかというふうに思っております。これは民間企業の普通の経済性計算だけではなかなか成り立たないというふうに思っておりまして、いわゆるプロダクト・デベロップメント・パートナーシップと言われるようなことが民間企業にとってこの開発を促進する大きな力になるということです。
お話が出ておりましたGHITもそうですし、IVCCとかMMV(Medicines for Malaria Venture)とかいろいろなパートナーシップがございます。民間企業にとってはこういったところと提携して継続的に研究開発を進めていくということが非常に重要だろうと思っております。
ただ、新しいことをやるということは、その評価をどうするかというのは非常に問題でして、よく新しいガイドラインがなかなかないということに直面いたします。われわれもいま薬剤を開発していますけれども、WHOに新しい薬剤を評価するスキームがない、それをどうしようかということで、そこから話をしますと、さっき言いました10年の期間がもっと延びてしまうということになります。したがいまして、それをどうしていくのかということで、これは実はゲイツ財団なども入りましてそのスキームをどうするかということで、いまI2I、Innovation to Impactという名前でプロジェクトをやっておりますけれども、こういったことが非常に重要になってくると考えております。
パートナーシップで、先ほどお話がありましたけれどもロールバック・マラリアはもう時間がたちました。実はこの4月に大きくロールバック・マラリアの仕組みが変わりまして、従来は基本的に先ほどのようにいろいろなパートナーシップがあるんですけれどもボードメンバーも非常に多くてなかなかワークしないということで、ボードメンバーを一新いたしました。実は私もこの4月から、民間企業の代表ではなく個人の資格で参加していますけれども13名のボードに入って、もう一度ロールバック・マラリアをスタートしようということで、いま一生懸命に本当にスクラッチでやっております。
もともとWHOがホストをやっておりましたけれども、新しいホストはUNOPSということで、いまいろいろな組織のつくり直しをやっているところです。これはパートナーシップですので特に何かお金がいるとかということではないのですけれども、皆さん方もぜひ一緒にロールバック・マラリアのパートナーシップにレジスターいただいて、いろいろなことを議論できればと思います。
その中にいくつか、アドボカシーとかコミュニケーションとか、あるいはリージョナルコンサルテーションとか、そういったいろいろなコミッティをつくっています。そこにはパートナーの方は皆さん、参加できるというふうな仕組みです。
そういったことでぜひお願いしたいと思いますが、リージョンのほうではALMA(African Leaders Malaria Alliance)とAPLMA(Asia Pacific Leaders Malaria Alliance)という大きな組織がございます。ALMAのほうはアフリカのリーダー、国の首脳の方が決めて、マラリアに対してどういうことをやっていくかという仕組みをもう何年も続けております。それに倣ってアジア・パシフィックでもAPLMAというものを2012年のシドニーでの会議をベースにして立ち上げております。
APLMAはもともとアジア開発銀行のマニラのオフィスに事務所がありましたけれども、この10月からシンガポールにオフィスを移しまして新たに活動をしております。こういったオフィシャルなパートナーシップは大事なのです。
それ以外にわれわれは、たとえばタンザニアでビジネスをやるときにはやはりどうしてもローカルなパートナーがいるとか、ローカルのガバメントと協力しなくてはいけない。民間企業にとってみますと、そういうパートナーがうまくいかないと、単独で、自分一人で何かをやるというのはなかなか難しいということをわれわれも経験しております。したがいまして、いいパートナーをどうやって見つけるかというのは民間企業にとっては非常に重要なことではないかなと思っております。
アジア・パシフィックは、先ほど狩野先生からもありましたが2030年までにマラリアフリーにしようということで、東アジアサミット、13カ国ですか、ここで各国の首脳が、安倍首相もサインをしました。それでそれぞれ国のスコアカードをつけて、その進捗を管理していこうという仕組みが始まっております。
マラリアというと皆さん、アフリカのイメージがありますけれども、冒頭、クリス・コームさんからも話がありましたようにアジアも実際にマラリアにエクスポーズしている人が非常にたくさんいるということで、まずアジアでなくしていかないといけない。先ほどの耐性薬剤の問題もありますので、アフリカがそれに続くというふうなことが現実的ではないかなと私は個人的に思っております。アジア・パシフィックがいかにこの活動を強化できるか、そこにマラリア・ノーモア・ジャパンも何とか協力して、いろいろなことをやっていきたいと考えております。
以上、非常に簡単ですけれども、民間企業の立場から言いますと、もう一度言いますけれども、やはり自分たちが持っているコアのテクノロジーで継続的にイノベーションをやっていく、ただそのためには、それを継続的にやるにはどういう仕組みがいるか、単独ではなかなか難しい、通常の経済計算だけでは難しい。そこにGHITやIVCCといったプラットフォームが民間企業にとっては非常に大事になってくる。そして最終的にいろいろなパートナーシップで一切の事業をやっていくと、こういうサイクルをうまく回していかないと、なかなか単発で終わってしまうということです。
日本にはGHITという、いろいろなところで話されている本当にすばらしい仕組みができたと思っていまして、こういったことをベースに製薬会社の方、あるいは診断薬、いろいろなところをやっておりますが、私個人的にはベクターのプログラムをぜひGHITで何かやれないかなと思っております。
いずれにしても日本がこういった国際保健、マラリアのエリミネーションに貢献していくチャンスはたくさんあると思いますので、ぜひ引き続き皆さんと一緒に戦っていきたいと思っております。どうもありがとうございました。[/vc_column_text][/vc_column][/vc_row]